「歌よみ心得」―前書き―

「歌よみ心得」―前書き―
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♪音読モード(06:05)♪
●今の世の人、誰そ歌よまんや?
 和歌の嗜みはもはや教養人の必須要件ではない。古典的なギリシア・ローマ神話や聖書の物語を知らぬ人間が「教養人」はおろか「西洋人」とすら認めてもらえぬ海外の事情に比すれば、「日本人であること」は地政学的偶然のみを前提とする実に安易な自然的営みに過ぎぬものらしい。
 そんな現代日本にも、幸か不幸か、和歌の最低限の約束事を知らねば社会的苦境に立たされる人々がいる ― 大学入試古文問題と格闘する受験生たちである。落第するのが嫌ならば、彼らは「古典文法」と「古文単語」に加えて、「和歌のいろは」をも学ばねばならぬ・・・が、所詮それは「文芸的教養のため」ではなく「心を豊かにするため」でもなく、「一生に一度の試験の場を難なく切り抜けるため」でしかないことを認めねばならぬ。
●「歌、歌」と、うたた書く本、うたてあり
 そんな現状なのだから、その道の好事家による同様の好き者向けの冗長なる情調に溢れた「文芸指南書」など、受験生にとっては迷惑極まる不愉快な別世界の豪華本に過ぎない。自分がやりたいこともせずに必死の苦役に耐えているのを尻目に、悠長な言葉のままごと遊びにうつつを抜かしているlotus-eaters(時のない国の安逸遊民達)の書き散らした無駄の多い文章など、限られた受験勉強の時間と労力と自らの忍耐力とを無為に空費するだけの「てんでわかってない邪魔者」であり、見るだに不愉快な見当違いの有り難迷惑にほかならぬ、とさえ(受験生の本音としては)言えるだろう。
●「学匠の本」ならぬ「学生の本」なれば「楽勝の本」たるこそ本意なれ
 そうした受験生の切迫した現実を今でも体感的に思い出せる程度の真剣で欲張りな受験生活をかつて送ったことのある著者として、そんな彼らの苦境を軽減するための大学入試対策教材作りを生業とする教育者として、ここから先の「歌よみ心得」は受験生本位に書いてある。「短歌の勧め」の本ではない;「最短距離で合格へと進め!」を合い言葉に古文入試の伴走者を務める指導者からの「和歌の世界はこう乗り切れ」の実技指導である。「受験生のための和歌の本」として本物の本を書いたつもりである。
 「この程度の事柄さえわかっておれば和歌に関しては問題ない」という事項を細大漏らさず記してあるが、要領の良い受験生なら4~5日で走りきれる世界である・・・が、この程度の事柄さえわからぬままに「歌読み」(果ては「歌詠み」)気取る日本人もまた、多いのである・・・から、受験生諸君よ、恐れることはない:和歌の世界は、諸君が思うほど、深遠にして難解な神秘の魔境ではない:安心して分け入りたまえ。
 筆者として唯一恐れるのは、自ら書きながら愉しみ過ぎる傾向を、どこまで自分は圧殺し切れたか、ということである。歌を読み、かつ、詠むのが趣味の悠長な筆者の数寄心に、好きな彼/彼女と逢う間も惜しんでとりあえず大学の門まで辿り着かねばならぬと鬱々としてひた屋ごもりの受験勉強に明け暮れる若い諸君の敏感な感性が、(受験生的には)無用な刺激を受けて(現代世界では)ほとんど役立たずの詩的文芸の小宇宙に、無益にふわふわ漂い遊ぶことになったなら・・・(ふふっ)ごめんなさい<(_ _)>
「歌よみ心得」―前書き―
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コメント (1件)

  1. the teacher
    <質疑応答コーナー>
    ・・・各ページ下には、質疑応答用の「コメントを残す」ボックスが用意されています(見本版では無効になっています)。
    ・・・教材をよく読めばわかるような無意味な質問や、当該テーマに無関係な内容の投稿でなければ、誠実&正確な回答が返ってくるはずです。

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