【如何様】必ずしも「イカサマ」ならず

   [49] 【如何様】必ずしも「イカサマ」ならず
「古文単語千五百Mastering Weapon」 No.723【如何様】
 「いかさま」は、現代語では「インチキ」の意味でのみ用いる。が、これは近世以降の後発語義であって、それ以前の時代の「如何様」にこの語義はない。
 「インチキ・詐欺・ペテン・やらせ・くわせもの」の意味の「いかさま」は、「本物も、まぁ大体こんな風な感じ」=「いかにも本物っぽい・・・けど実は真っ赤な偽物」というところから生じたものであって、このあたりがいかにも近世の語という感じである。
 「本物」を意識して「まぁ、こんな感じに似せて作れば、バカなカモは引っかかるかもね」という詐欺行為が成立するための前提条件としては、「大勢の人間が’うろ覚えの噂’を通して知っている(が本物のことはよく知らない)羨望の的」となる何かが存在せねばならない。そうした「今、で噂の、これが例の***だよーっ!さぁさ、買ったり、買ったり!」と煽る商売が成り立つのは、「比較的広域の消費経済圏」が成立し、自分の知らぬ土地からもいろんな品物や情報が舞い込んでくる社会背景あればこそ、である。
 狭い京都の御公家さんたちの閉鎖的社会の中で展開する中古の物語の中では、他者の動向については誰もが(異常なまでに細かく)熟知しているのだから、「うろ覚えの羨望心理を突いたイカサマ商売」など成り立たない・・・こうしたペテンにかかってくれるのは、「京都のキレイな舞妓はんや大阪のド派手な姐ゃんたちの間で今大流行、上方じゃぁ女の子は誰もがみんなこれを付けている、ってーぐらいの、さぁさ、よーっく見ておくれ ― これがその’ネコミミ’だよっ!お尻の形に自信のあるお嬢さんなら、ついでにこちらの’ミケシッポ’もどーだいっ?四つ足ついてすり寄って’ニャオ’って迫れば、どんな男もイチコロだよーっ!」的な古典的誘い文句にコテンと引っかかる「お江戸の純朴な町娘たち」あたりであろう。
 自分自身がロクに知らぬ世界へと、知らぬがゆえの羨望のヨダレ垂らして、背伸びして入り込もうとするからこそ、ペテン師どもの餌食になるのであって、誰もが何でも知っている閉鎖系の社会や、知らぬ事にはきちんとした理知的警戒心を発揮する知識人が主役の世界では、この種の地に足がついてない連中相手のイカサマ話など不成立、という理屈である。

———-

コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

コメントは受け付けていません。