うつくし【愛し・美し】〔形シク〕〔副〕

   [245] うつくし【愛し・美し】〔形シク〕〔副〕

〈A〉 うつくし【愛し・美し】
《「親から子/夫から妻」のような近親者の間での「目上から目下への愛情」が原義。平安期には「年下・小型・無力な存在」への「守ってあげたい可憐な感覚」の語義が加わり、中世には「外観上の美麗さ」、中世末から近世にかけて「行動上の潔さ」の語義も加わった。》
〔形シク〕 {しから・しく/しかり・し・しき/しかる・しけれ・しかれ}
  (1) 〈(親子・夫婦間での)愛し、いたわりたい感覚。〉 いとおしい。わしい。   (2) 〈(相手の小ささ・弱さ・けなげさに対して)自身の心のとげとげしさが失せ、とろけるような気持ちで、相手を守ってあげたくなる感覚。〉 可愛らしい。可憐だ。心がむ。抱きしめたい。ずりしたい。もうメロメロだ。   (3) 〈(外観に関して)美意識に心地よく訴えてくる感覚。〉 美麗だ。綺麗だ。よく整っている。美しい。   (4) 〈(行動・出来映えが)何らかの尺度に照らして、賞賛に値する感覚。〉 見事だ。立派だ。大したものだ。優秀だ。めてよい。   
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【うつくし】きもの=【いつく】べきもの=守ってあげたい清純さ
 現代でこそ「外観上の端正さ」へと矮小化されてしまった「美しい」は、その原義に於いては「うつくし」ならぬ「いつくし」であった。「慈しむ」とすればその語感は現代人にもわかるであろう:「大事に守ってあげる」べき汚れなき(&力なき)何かに対する自然発露的な保護衝動が「いつくし→うつくし」なのである。
 なればこそ、古語の「うつくし」は、自分よりもか弱い存在に対して向けられるものであって、「親から子へ」、「夫から妻へ」、「大人から子供へ」、「人間から猫へ」のような「慈愛」の目線で語られる「美し」なのである。猛々しい武士の戦装束だの戦艦大和や日本刀の機能美だのを「美しい」と感じる感性は近・現代的なものであって、それ自体が強さを具現している対象物に対しては、平安時代の人々は「美し」とは叫ばなかったはずである。
 古語の「いつくし」はまた、「神々しい」にも通じる。「いつ」は「厳」であり、そこに神威が宿るからこそ「荘厳なる美」が感じられるのだ。平清盛が平家一門の守り神としたあの「厳島神社(いつくしまじんじゃ)」の神聖なる美しさは、「いつくし/うつくし」の相互乗り入れ語感を象徴的に語るものであろう。
 「うつくし」が「見る者の美意識に、好意的な形で訴えかけてくる、外観・行動上の美」へと転ずるのは、平安も終わって鎌倉~室町時代に移る頃。逃れられぬ敗残を悟って「美しく切腹」する侍が出てくる時代には、もう、「守ってあげたい」意識が「美し」に宿ることはなくなってしまった。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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