そむく【背く】〔自カ四〕〔他カ下二〕

   [875] そむく【背く】〔自カ四〕〔他カ下二〕

〈B〉 そむく【背く】
「背」+「向く」(=対象に背を向ける)が原義。「後方や側方を向く・向かせる」・「離れる」といった物理的な語義の他、心理的な「反逆する」・「離反する」、宗教的脈絡での(主に「世を背く」の形での)「俗世を捨てて仏門に入る」の語義がある。》
〔自カ四〕 {か・き・く・く・け・け}
  (1) 〈(空間的に)後方・側方を向く。〉 背を向ける。横を向く。後ろ向きになる。振り返る。   (2) 〈(心理・行動の上で)相手の立場に同調しない。〉 逆らう。反対する。反目する。反抗する。く。   (3) 〈(空間的距離に言及して)それまで一緒にいた人から遠い場所に行く。〉 離別する。離れる。別れる。去る。   (4) 〈(多く「世をそむく」の形で)俗世間を捨てて、仏門に入る。〉 出家する。隠遁する。僧になる。尼になる。隠者となる。世捨て人として暮らす。   
〔他カ下二〕 {け・け・く・くる・くれ・けよ}
  (1) 〈(空間的に)後方・側方を向かせる。〉 背ける。らす。背を向かせる。横を向かせる。後ろ向きにする。振り返らせる。   (2) 〈(心理的に)相手と同じ立場に身を置くことができない。〉 離反する。心を離す。見捨てる。見限る。同調できない。付いて行けない。
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【背く】は「背+向く」
 日本語というやつは、その構成要素を漢字に換言して捉えてみればその感じが分かることが多い便利な言語であり、「そむく」のままではピンと来ないこの語も、「背+向く」とすれば「対象に背を向ける」語感がきっちりわかって便利である。
 ついでに言えば、「背中」を向けるのとは逆に「顔」を向ければ、「面(おも)+向く」=「おもむく(赴く)」となる。「赴く」の漢字の感じに縛られている限りは「A地点におもむく(=出向く)」の意味しか浮かんで来ないが、「面向く」へと視点を切り替えれば、「元来乗り気でなかった人物の顔(=面)を、ある方向へと向かせる=うまいこと説得する・服従させる」という(現代では死語と化した)古語の語義を把握するのに役立つ。
 漢字は、日本語の横滑りを演出する困った滑脱記号としての負の側面をも持つが、意味の円滑な把握を助ける潤滑油としてもしばしば大活躍するのだから、学習者としてはこれを存分に活用するのが当然であろう・・・その意味でも、昨今の日本の白ち的なる漢字隠ぺい工作の愚まい性ははなはだ遺かんなことであり、こんなことを続けていたらただでさえだ弱な現代日本人の言語能力はいよいよち命的たい廃してしまうのではと危ぐされるところである。
 とまぁ、かんじのないじがどんなかんじかであそんでしまったあとで、気を取り直して最後にもう一つだけ古語のお勉強:「背く」の対象として「世」に背を向ける「世をそむく」は、「世間に逆らう反社会的人物」を想定させる響きがあるが、実際にはこの「世」は「世俗・俗世」の意味であって、「寺・仏界・宗教界」の対義語として用いられており、「よをそむく」=「世俗を捨てて、仏道修行の生活に入る」、即ち「出家する」の意味となる。現代日本人の生活感覚からは全く縁遠い語だが、古典時代にはやたらめったら出てくる行為が「出家」なので、しっかり向き合って覚えておくように。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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