【じ】の三態

   [400]  【じ】の三態
「古文単語千五百Mastering Weapon」 No.【じ】

 助動詞としての意味はあまり多くはないが、それでも受験生を悩ませるものの一つが「じ」である。打消推量と呼ばれるその用法は、英語の「will not」に相当し、単純な推量の「・・・するまい」なのか、それとも意志含みの「・・・するつもりはない」なのか、という点の判断を迫られる点でも全く同じである。
 そうした「意志が入るか、入らぬか」は、結局脈絡を頼りに割り出すよりほか仕方がないのであるが、英語に比較すれば日本の古文(否、現代文の多くも)は、作中人物の心的態度に明瞭な決着を付けてくれぬ場合が多いので、結局最後の判断は「運任せ」に頼らざるを得ぬ場合も少なくないのが現実なのである。
 が、そうした用法とはまた別に、ここにもう一つの(かなりヘンテコな)「じ」の用法がある:
◆自分自身以外の他者に対し、直接に呼び掛ける形で、「・・・するのはよくないですよ」とたしなめる;あるいは「・・・しないでくださいよ」と軽く命令する。
 これまた実に日本の古語らしい展開であって、本当は「・・・するな!」と命じたい場面でも、話法上は「・・・する、ということはないでしょう;だって、・・・するなんて普通ありえないことだもの。ね、そうでしょう?あなただったら・・・するはずもないでしょう?しませんよねー、・・・だなんて」という形で「打消推量」を、相手の眼前で、してみせることで「しないでね」と釘を刺すわけである。
 が、こうした持って回った否定命令文は、いかに慎み深い平安時代人にとってもさすがに迂遠すぎて非現実的な言い回しだったらしく、この種の「・・・じ」が用いられる場面は滅多になかったようである。
 ちなみに、この否定版もにゃもにゃ命令文「・・・するな」の「・・・じ」の裏返しは、「・・・む」(・・・しておくれ)であったが、これまた用例は(わざとらしい古式文体の中以外では)滅多に見られない。

———-

コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

コメントは受け付けていません。