さが【性・相・祥】〔名〕

   [670] さが【性・相・祥】〔名〕

〈A〉 さが【性・相・祥】
《自分の力ではどうにもならぬ「自然のままの性質・運命」を指す語。良くない「宿命」に言及する例が多いのは英語の”fate”と同じ。個人的な「生来性分」、社会的な「世の習い」の意もある。近世以降の「欠点」の意は、「さがなし」(性格が悪い)の逆成+「さが」と「とが(咎)」の混同によるものであろう。》
〔名〕
  (1) 〈(多く、悪いものに用いて)生まれる前から決まっている巡り合わせ。〉 宿命。不運。運命。天運。   (2) 〈(多く、悪いものに用いて)(生得的で、自分ではどうにもならない)性質。〉 生まれつきの性分性格。体質。本性。   (3) 〈(統計的に見て)世間によく見られる現象。〉 世の習い。世の常。習わし。習慣。習俗。慣習。   
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【さが】=【とが】?
 「性」と書いて「せい」ならぬ「さが」と読めば、そこには常に「困った性質・・・と、わかっちゃいるけどやめられない」の否定的語感が伴う(例:「貪欲なのは男の」)。この性質は古来のものらしく、「さが」は「その人が生まれながらにして持っている、変えようがない宿命的特性」の意味として、しばしば良くない体質を指す語として使われている。英単語で言えば「propensity」あたりの持つ否定的陰影を宿した語であり、「character」や「trait」のような中立的語感の古語ではない。
 が、それにしてもこの「(性)さが」を ― ある意味で当人の責任ではない生来の困った性質を ― 「罪」だの「欠点」だのとまで言い放つのは如何なものか遺憾なことだと言うべきであろう?が、実際、近世の和文ではそうした語義への横滑りをこの「さが」は演じている。何故そうなったのか、は至って単純で、次のような純朴なる類推(有り体に言えば、思い違い)に起因する現象である:
1)「さがなし」なる形容詞が「困ったものだ」の意味で多用された。
 ・・・「性」=「人が生来持つ変えようのない性癖」である以上、「無くて七癖」の格言通り、「性」は誰もが持つものであるから、この「性なし」は「性+無し」である道理がなく、「性+甚し」である;からには、「甚だしい」として強調されて「まったく困ったものだ」の意を表わすこの「性」は「困った性質・罪」であろう、という発想である。
2)「さが」と音感的に類似した「とが(咎)」なる名詞が存在した。
 ・・・そして「とが」の語義は「罪」である;ので、「さが」=「罪・いけないこと・欠陥」というわけである。こんな単純な取り違えで語句の意味が変わる現象など、英単語にはまず起こり得ないことである。アルファベットという表音文字で構成された西欧言語では、微妙な音の差異に対して日本語とは比較にならぬほど敏感なのだから、こんなアホな取り違えを演じようがないのだ。・・・というよりむしろ、漢字という表意文字に時折混じる平仮名という表音文字が適当に組み合わされて営まれる「チャンポン(&チャランポラン)言語」日本語による言語活動では、単純な字面や音感上の類似性に起因する混同が、英語などの基準から見れば到底信じ難いほどの安直さ+高頻度で発生しまくる、と言ったほうが正しいであろうか。
 日本語育ちの日本人の音感的鈍感さは、まじめな顔して英語人種に「Please SHIT here (which is meant as ‘Please SIT here’.)」だの「I ROB you (meaning, of course, ‘I LOVE you’.)」と言っちゃう言語学的「さが」に見られる(or聞かれる)通り(当の日本人以外には)有名(meaning, of course, ‘notorious’ as opposed to ‘famous’)な話だが、こうした体質の改善には「LとR」だの「SとSH」だのの表面的な舌の使い方ばかり特訓してもどうにもならない。「日本語」&「日本人であるということ」が本源的に持つ「さが」の否定的側面から目をらさず、直視してその醜悪さ・愚かしさを熟知し、これに陥らぬよう自戒することで、意識的・意志的にその「さが」から遠ざかる覚悟を持つことである・・・「横滑りばかり繰り返すいいかげんな言語」というのは紛れもない「日本語のサガ」であるが、個人個人の言語学的賢慮と意志的努力によってこれを(西欧言語圏の人々に対して恥ずかしくない程度まで)克服することは十分可能なのであるから、その意味で「バカっちい日本語使い」は「個人的トガ」であり、「日本人としてのサガ」ではない、と言えるのだ。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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