ことづく【言付く・託く】〔自カ下二〕〔他カ下二〕

   [636] ことづく【言付く・託く】〔自カ下二〕〔他カ下二〕

〈C〉 ことづく【言付く・託く】
《現代の「言付け」は「伝言」の意だが、上代には「言/事」は言語学的に未分化、その後も発言と行動が密接に連動するのが古典時代の感覚なので、「事」系に属する「物品の預託」・「行動の委託」、更には「託つ」と同様の「事態の原因を他者に帰する」意をも表わす。》
〔自カ下二〕 {け・け・く・くる・くれ・けよ}
  (1) 〈(事態を)他者に原因があるとする。〉 ・・・にかこつける。・・・のせいにする。・・・を口実とする。・・・にする。   
〔他カ下二〕 {け・け・く・くる・くれ・けよ}
  (1) 〈(第三者に対して)自分に代わって発言・行動・保管するよう頼む。〉 伝言する。委託する。預託する。言付ける。言い付ける。言い置く。預ける。託す。お願いする。
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【言+付く】=「これ、あんたが言って」/【事+付く】=「これ、あんたがやった!」
 古語の「こと」は「言」と「事」の二つに分かれるが、上代の日本に於いてはこれら二つは字面の上でも概念的にも「不可分」のものだったと言われている。中古以降「言/事」は次第に分化し、現代日本に於いては「言/行不一致」はもはや「言ふべきにもあらぬ」世の常と堕した感がある・・・が、まぁそうした社会学的考察はこの際さて置くとして、奈良時代あたりの「こと=言&事」という渾然一体性は、平安時代の日本語にも惰性的に引き継がれている部分があり、「こと」を含む古語の場合は常に「言?or事?」という問題意識を持って臨む必要がある、というのが古文読みの鉄則であることは指摘しておくべきであろう。
 この「ことづく/ことづけ」もやはり、「言+付く」と見れば「自分では言えない何かを、代理人に託して他者へと伝えてもらう」の意味(現代日本語にも残る「言付け・言伝て・伝言:message」)と同時に、「事+付く」=「出来事の原因を、誰か/何かに帰する」の意味(英語で言う「attribute/ascribe A to B」)をも表わす。
 「言/事」が完全に別物の現代日本に、前者の「託け(message)」のみ残り後者の「事付け(blame)」が死語と化したのは当然のような気もするが、どっこい、この「事付け」、意外な形で今に至るまで残っているのである ― 「かこつけ(る)」がそれである。「ことづけ(言付け/事付け)」は、現代日本語ではいずれも「託け」と表記する。この「託」の文字が使われる古語に「かこつ(託つ)」がある。四段活用で{かこた(ズ)・かこち(ケリ)・かこつ(。)・かこつ(トキ)・かこて(ドモ)・かこて(!)}と変化する動詞であるが、これが下二段活用の「ことづく」={ことづけ(ズ)・ことづけ(ケリ)・ことづく(。)・ことづくる(トキ)・ことづくれ(ドモ)・ことづけよ(!)}と混じり合った結果として、「託つ(かこつ)」+「託く(ことづく)」÷2=「託付く(かこつく)・・・かこつける」なる語の誕生を見たわけである。「言」と「事」とが二つに分かれても、「言の葉」が字面&音感の安直な類推から数限りなく横滑りを演じた結果として意外な形で一つにくっついてしまう日本語の体質は、古来、まるで変わらない・・・というか、近年、横文字なる新たな要素も加わることでますます激化or悪化の一途辿っている、というべきか。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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