▲ | [612] 【をとめ】は永遠?不老不死?
「古文単語千五百Mastering Weapon」 No.651【少女・乙女】
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「古文単語千五百Mastering Weapon」 No.651【少女・乙女】
現代では「乙女座(Virgo・・・処女宮)」や「乙女チック・・・少女趣味」あたりの定型句の中ぐらいでしかお目にかからぬ「をとめ」だが、この語の冒頭部「をと」に「甲・乙・丙」の中位に当たる「乙」を宛てたのでは、何だか「20~30代女性」みたいで「おとめちっく」じゃない響きに化けてしまう・・・恐らくこの宛字の背景には「男=甲」/「女=乙」(・・・オカマ&オナベ=丙?)的な意識でもあったのだろうが、そんな適当極まる後代の横滑り漢字(or感じ)事情は知的考察の対象としては論外なので、ここでは純然たる語源学的事情から「乙女」を考察することにしよう。
-「をつ」=(×)「落つ」 (○)「戻る」-
「をとめ」は「をとこ」の対義語である。これらの語頭にある「をと」は、元来「をつ=復つ・変若つ」であり、その語義は実に「若々しいエネルギーが再び満ち溢れること」、英語で言えば「revitalize=再生・復活」である。キリスト様じゃあるまいし、一度死んだらそれっきりになる「mortal:死すべき運命」の人間に使うにはいささかオカルトめいた話になるが、万葉の時代には結構この「をつ」 ― 多分に「祈りをこめて」だが ― 次のような感じで使われていたものらしい:
「いにしへゆ人の言ひ来る老人のをつとふ水そ名に負ふ滝の瀬」(『万葉集』一〇三四・大伴東人)
「遠い昔より、’老人がこの滝の水を浴びたら若返った’と言い伝えられて来た、そんな奇跡的事例を名として持つこの滝の流れであることよ」
・・・「若返りの滝」を自らの名として持つこの滝とは、何の滝か?答えは「養老の滝」なのだそうな・・・どうも、「老いた親に孝養を尽くす息子が水を汲もうとしたところ、酒に化けた」という伝説とは別ヴァージョンの話らしい。場面的には、近鉄養老線の「養老」駅が最寄りとなる実在の滝のこと(らしいん)だが、関東もんの筆者の無粋な想像はどうしても「二次会で繰り出す比較的安上がりな酒場(チェーン)の名」へと結び付き、若さを「取り戻す」より、安酒&消化の悪い食い物を「モドす」的なゲロゲロ展開へともつれこみがち・・・どうせ実在せぬ「若返りの泉」より、青春時代の実存的体験の数々への回帰現象を示すのが人間精神の性なのであろうか・・・まぁ、そういう「おェっ!」的なコキタない話はキレイさっぱり忘れてもらうとして、話を「をつ」に戻せば、「<をと>こ=男」も「<をと>め=女」も、その語頭の「若さの泉」的性質からして、「若い男・女」限定であることが了解いただけたことであろう。
-「をのこ」は「をとこ」ならず/「めのこ」は「をとめ」にあらず-
この「をと」、単に「若さ」を表わすのみならず、古語に於いては別種の機能をも果たしている、という現象をも指摘しておく必要があろう。
「をとこ」によく似た古語として、「をのこ」というのがある。が、その語頭にある「を」は「をつ=若返り」の意味ではなく、「雄・オス・♂」という動物的な性別を表わすものでしかない。その語感は軽蔑調であって、少なくとも「貴人の女性の目から見て、結婚相手としては意識されない存在」なのだ。「下男」だの「兵卒」だのといった「下々の、使い潰されるだけの手駒」というその感じは、英語の「men=手下・歩兵・(将棋の)ト」に近い・・・トホホの展開で、何とも「男の子はつらいよ」といった感じであるが、「オス」に関してこの種の展開がある以上、「メス・雌・♀」に近い動物的語感で用いられた「女」の古語=「めのこ(女の子)」もまたあるわけで、その響きにはやはり「をとめ(乙女・少女)」よりも一段低いものがある。
かくて、「を(オス・雄)」由来の接頭語「を」が「下等な響き」を帯びたせいで、相対的に押し上げられる形で「上等な響き」を持つに到ったのが「をつ(復つ・変若つ)」由来の「を」、というわけである。「をつ」自体には本源的に「上流階層」の意味合いなど全くないにもかかわらず、こういうことになるのが日本語の面白い(&毎度お馴染みの)展開というものである。
-差別用語をもうひとくさり-
「め」は「メス」に通じるから「下々専用語・・・上流階層に使ってはダメ!」というルールは、「妻」と書いてあっても、それが「受領(じゅりょう・ずりょう・ずらう)の妻女」以上の階層に属する女性なら「つま」/それ以下なら「め」と蔑んで読まれた、という差別規程にもつながっている。
ちなみに、下層階級の「妻=め」とペアになる「夫」の読み方は「をひと」である。一方、上流階層では「夫」と書いても「つま」と読んだり(古典時代の「つま」は’雌雄同体’の無性別語だったのである)、「せ」と読んだりした。もっとも、男性の「せ(背・兄・夫)」に対する女性語は「め(妻・女)」よりも「いも(妹)」の語感が強かったが。
言葉の次元での差別は、いつの時代にも、どこの国にもあるものである・・・差別という行為の根源的無根拠性やその醜悪なる愚かしさを知る上で、こうした語源学的考察は大きな意味を持つことであろう・・・ということで、最後にもひとつオマケの罵倒語を紹介して、この一節の結びとしよう:
「けっ!ゲロゲロだのオスメスだのと、ケッタクソ悪いことばっか書きやがってこの言葉ヲタク”め“がっ!」・・・この「め」が「雌」であることは言うまでもあるめぇ・・・ってゃんでぇ、何のこたぁねぇ、「このアマぁ!」あたりの言い草と変わりゃぁしねぇじゃんかよ。・・・するってぇと何かい、「メス(女)=男に比べて一段低い、蔑まれるべき生き物」ってぇことかい?ケッ!冗談じゃねーゃ、こちとら江戸っ子でぇい、もとい、21世紀人でぇい、女のぉーが男なんぞよりずっとえばってる御時世だってんでぇーぃ。ぁーッムカつくーっ!こうなりゃアッタマきちゃったからこの女を虐げる前時代的な罵り文句、思いっきり性転換したげるから見てなさいよっ! ― 「何’をーっ’!?」 ― どぉーっ、これ?・・・え?「バカ’めっ’」?・・・キィーッ!もぉーっ、男尊女卑もいいかげんにしなさいよをーっ!(・・・おあとがよろしいようで・・・)
-「をつ」=(×)「落つ」 (○)「戻る」-
「をとめ」は「をとこ」の対義語である。これらの語頭にある「をと」は、元来「をつ=復つ・変若つ」であり、その語義は実に「若々しいエネルギーが再び満ち溢れること」、英語で言えば「revitalize=再生・復活」である。キリスト様じゃあるまいし、一度死んだらそれっきりになる「mortal:死すべき運命」の人間に使うにはいささかオカルトめいた話になるが、万葉の時代には結構この「をつ」 ― 多分に「祈りをこめて」だが ― 次のような感じで使われていたものらしい:
「いにしへゆ人の言ひ来る老人のをつとふ水そ名に負ふ滝の瀬」(『万葉集』一〇三四・大伴東人)
「遠い昔より、’老人がこの滝の水を浴びたら若返った’と言い伝えられて来た、そんな奇跡的事例を名として持つこの滝の流れであることよ」
・・・「若返りの滝」を自らの名として持つこの滝とは、何の滝か?答えは「養老の滝」なのだそうな・・・どうも、「老いた親に孝養を尽くす息子が水を汲もうとしたところ、酒に化けた」という伝説とは別ヴァージョンの話らしい。場面的には、近鉄養老線の「養老」駅が最寄りとなる実在の滝のこと(らしいん)だが、関東もんの筆者の無粋な想像はどうしても「二次会で繰り出す比較的安上がりな酒場(チェーン)の名」へと結び付き、若さを「取り戻す」より、安酒&消化の悪い食い物を「モドす」的なゲロゲロ展開へともつれこみがち・・・どうせ実在せぬ「若返りの泉」より、青春時代の実存的体験の数々への回帰現象を示すのが人間精神の性なのであろうか・・・まぁ、そういう「おェっ!」的なコキタない話はキレイさっぱり忘れてもらうとして、話を「をつ」に戻せば、「<をと>こ=男」も「<をと>め=女」も、その語頭の「若さの泉」的性質からして、「若い男・女」限定であることが了解いただけたことであろう。
-「をのこ」は「をとこ」ならず/「めのこ」は「をとめ」にあらず-
この「をと」、単に「若さ」を表わすのみならず、古語に於いては別種の機能をも果たしている、という現象をも指摘しておく必要があろう。
「をとこ」によく似た古語として、「をのこ」というのがある。が、その語頭にある「を」は「をつ=若返り」の意味ではなく、「雄・オス・♂」という動物的な性別を表わすものでしかない。その語感は軽蔑調であって、少なくとも「貴人の女性の目から見て、結婚相手としては意識されない存在」なのだ。「下男」だの「兵卒」だのといった「下々の、使い潰されるだけの手駒」というその感じは、英語の「men=手下・歩兵・(将棋の)ト」に近い・・・トホホの展開で、何とも「男の子はつらいよ」といった感じであるが、「オス」に関してこの種の展開がある以上、「メス・雌・♀」に近い動物的語感で用いられた「女」の古語=「めのこ(女の子)」もまたあるわけで、その響きにはやはり「をとめ(乙女・少女)」よりも一段低いものがある。
かくて、「を(オス・雄)」由来の接頭語「を」が「下等な響き」を帯びたせいで、相対的に押し上げられる形で「上等な響き」を持つに到ったのが「をつ(復つ・変若つ)」由来の「を」、というわけである。「をつ」自体には本源的に「上流階層」の意味合いなど全くないにもかかわらず、こういうことになるのが日本語の面白い(&毎度お馴染みの)展開というものである。
-差別用語をもうひとくさり-
「め」は「メス」に通じるから「下々専用語・・・上流階層に使ってはダメ!」というルールは、「妻」と書いてあっても、それが「受領(じゅりょう・ずりょう・ずらう)の妻女」以上の階層に属する女性なら「つま」/それ以下なら「め」と蔑んで読まれた、という差別規程にもつながっている。
ちなみに、下層階級の「妻=め」とペアになる「夫」の読み方は「をひと」である。一方、上流階層では「夫」と書いても「つま」と読んだり(古典時代の「つま」は’雌雄同体’の無性別語だったのである)、「せ」と読んだりした。もっとも、男性の「せ(背・兄・夫)」に対する女性語は「め(妻・女)」よりも「いも(妹)」の語感が強かったが。
言葉の次元での差別は、いつの時代にも、どこの国にもあるものである・・・差別という行為の根源的無根拠性やその醜悪なる愚かしさを知る上で、こうした語源学的考察は大きな意味を持つことであろう・・・ということで、最後にもひとつオマケの罵倒語を紹介して、この一節の結びとしよう:
「けっ!ゲロゲロだのオスメスだのと、ケッタクソ悪いことばっか書きやがってこの言葉ヲタク”め“がっ!」・・・この「め」が「雌」であることは言うまでもあるめぇ・・・ってゃんでぇ、何のこたぁねぇ、「このアマぁ!」あたりの言い草と変わりゃぁしねぇじゃんかよ。・・・するってぇと何かい、「メス(女)=男に比べて一段低い、蔑まれるべき生き物」ってぇことかい?ケッ!冗談じゃねーゃ、こちとら江戸っ子でぇい、もとい、21世紀人でぇい、女のぉーが男なんぞよりずっとえばってる御時世だってんでぇーぃ。ぁーッムカつくーっ!こうなりゃアッタマきちゃったからこの女を虐げる前時代的な罵り文句、思いっきり性転換したげるから見てなさいよっ! ― 「何’をーっ’!?」 ― どぉーっ、これ?・・・え?「バカ’めっ’」?・・・キィーッ!もぉーっ、男尊女卑もいいかげんにしなさいよをーっ!(・・・おあとがよろしいようで・・・)
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