【うつくし】きもの=【いつく】べきもの=守ってあげたい清純さ

   [110] 【うつくし】きもの=【いつく】べきもの=守ってあげたい清純さ
「古文単語千五百Mastering Weapon」 No.669【愛し・美し】
 現代でこそ「外観上の端正さ」へと矮小化されてしまった「美しい」は、その原義に於いては「うつくし」ならぬ「いつくし」であった。「慈しむ」とすればその語感は現代人にもわかるであろう:「大事に守ってあげる」べき汚れなき(&力なき)何かに対する自然発露的な保護衝動が「いつくし→うつくし」なのである。
 なればこそ、古語の「うつくし」は、自分よりもか弱い存在に対して向けられるものであって、「親から子へ」、「夫から妻へ」、「大人から子供へ」、「人間から猫へ」のような「慈愛」の目線で語られる「美し」なのである。猛々しい武士の戦装束だの戦艦大和や日本刀の機能美だのを「美しい」と感じる感性は近・現代的なものであって、それ自体が強さを具現している対象物に対しては、平安時代の人々は「美し」とは叫ばなかったはずである。
 古語の「いつくし」はまた、「神々しい」にも通じる。「いつ」は「厳」であり、そこに神威が宿るからこそ「荘厳なる美」が感じられるのだ。平清盛が平家一門の守り神としたあの「厳島神社(いつくしまじんじゃ)」の神聖なる美しさは、「いつくし/うつくし」の相互乗り入れ語感を象徴的に語るものであろう。
 「うつくし」が「見る者の美意識に、好意的な形で訴えかけてくる、外観・行動上の美」へと転ずるのは、平安も終わって鎌倉~室町時代に移る頃。逃れられぬ敗残を悟って「美しく切腹」する侍が出てくる時代には、もう、「守ってあげたい」意識が「美し」に宿ることはなくなってしまった。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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