させたまふ【させ給ふ】〔連接語〕

   [688] させたまふ【させ給ふ】〔連接語〕

〈A〉 させたまふ【させ給ふ】
《「さす」が使役の場合と、尊敬の場合とで意味が分化する。元来「さす」は「使役」の助動詞だが、普通の人が自力で行なうことを、他者を使役して行なわせる立場にある高貴な人の営み言及するところから「尊敬」の助動詞にも転じて用いられるようになった。》
〔連接語〕 《さす〔助動サ下二型〕使役・尊敬+たまふ〔補動ハ四〕》
  (1) 〈(「さす」が使役の場合)敬意を含む使役を表わす。〉 ・・・おさせになる。・・・させなさる。   (2) 〈(「さす」が尊敬の場合)(天皇またはそれに準じる相手への)極めて高い尊敬を表わす。(会話や手紙の中ではさほど高くない地位の人にも用いる)〉 お・・・になる。お・・・なさる。・・・あそばす。
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のままでは使わず、必ず他の敬語にブッ刺す形で使う「尊敬」の【す】・【さす】
-「尊敬表現」に添えて二重に敬意を高める「す」・「さす」-
 元来「使役」の助動詞「す」・「さす」は、「自らは事を為さず、他者を使役して事を為さしむる」という貴人の行動様態を表わすのに相応しいという原理から、「尊敬」の意味をも表わした。
 が、この作為性の強い「尊敬」の「す」・「さす」は、全ての動詞に(「る」・「らる」のように)自然にくっついて「尊敬」の意を表わす助動詞ではない;引っ付く先は「尊敬語」と決まっていて、以下のような定型句の構成成分に過ぎぬものなのだから、その意味で「尊敬の助動詞」と呼ぶのには少々難があるとさえ言えるものである:
◆「・・・せ給ふ」・「・・・させ給ふ」
◆「・・・せおはします」・「・・・させおはします」
◆「・・・せまします」・「・・・させまします」
-「す」・「さす」が本来の「使役」の意味にとどまる場合-
 上のような「二重敬語」の形で相手への敬意を強める言い回しとしては、「す」・「さす」を独立して解釈せずに「定型句として棒暗記」して乗り切ってしまえばよい、ということになる・・・これだけなら実に楽な展開である;が、困ったことに、これらの表現に於ける「す・さす」が「尊敬」ではなく「使役=・・・させる」の原義を相変わらず保ち続けている場合もあって、そうした場合は当然「・・・であらせられる」ではなく「・・・させなさる」と訳さねばならない。外形からの区分は付けられないから、脈絡上「誰かを使って何かをさせる」意味に取り得る場面か否かをじっくり見極める必要があるわけで、これまた出題者による受験生イジメには格好のネタ、ということになる。
 ちなみに、「二重敬語」と言うといかにも「とてつもなくエラい誰かさん(天皇とか皇后とか)」だけが尊敬対象になりそうな感じだが、会話や書簡文の中では、さほど敬うべきとも思われぬ相手に対して「せたまふ」などと平然と用いられていた・・・「敬語なんて言っても、所詮リップサービス」というわけで、このあたりの偽善的事情は、千年たっても何一つ変わらぬ「敬語という名の美辞麗句にまつわる醜悪なる真実」というわけである。

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コメント (1件)

  1. the teacher
    ・・・当講座に「man-to-man指導」はありませんが、「コメント欄」を通しての質疑応答ができます(サンプル版ではコメントは無効です)

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